一字一字

タイプフェイスデザイナーのシンポジウムに行った。

現在使われている代表的な日本語フォントを設計した5人のタイプフェイスデザイナーが各書体のコンセプトや制作過程を語り、フォントを使う側であるグラフィックデザイナーと研究者がこれからのタイポグラフィーについて討論するというもの。

例えば、JR、私鉄の駅名標などに使われている"ゴナ"、国道標識に使われている"ナール"といったフォントを設計した中村征宏、60年代、タイプフェイスデザイナーによって最初に実用化された新書体と言われる"タイポス"を設計した桑山弥三郎、MacOS Xに標準インストールされているヒラギノを設計した鳥海修など、著名な本文用書体の設計家が自らの書体を語った。

それぞれにコンセプトを持って設計されたフォント。
手書き制作のフォントは、一字一字、手書きでデザインされる。

日本語は、アルファベットと比べて圧倒的に文字数が多い。
1ウエイト(太さ)につき1万字以上を、一字一字、手書きで。

つまり、例えば6種類のウエイトがあるフォント制作のためには、
6万字以上の文字を書く必要がある。

一日、頑張って作業しても20字書くのが限界らしい。
一字一字は、それだけ時間をかけて制作されている。

想像を絶する、根気のいる作業。

本文用書体には、読みやすさと美しさが求められる。
そうでなければ、そのフォントは使われることなく消えていってしまう。

現在も幅広く使われているフォントを設計したタイプフェイスデザイナーたちの言葉には、重みがあった。

つくった人たちの声を聞いて、文字の見え方が、また少し変わった。