雪の道でも暖かい

知らない街を歩くのはとてもたのしい。

今、北海道で、僕が過ごしているこの街は、
すぐ近くに山へ向かう道があり、それと反対方向には、
海岸沿いを歩ける道があり、どれだけ歩いても、
新たな風景が広がってきます。

雪を踏みしめる、ふさふさという音を楽しみながら、
滑らないように、ゆっくりと歩く。
その途中、こじんまりとした珈琲店を見つけました。
コーヒー店ではなく、珈琲店と書きたくなるような、
そんな雰囲気のお店。

かっちりと紳士的な佇まいでありながら、やさしそうなマスターは、
僕を見て、地元の人ではないなというような、おやっ?とした反応。
少しかしこまった表情で、珈琲をじっくりと煎れてくれる。

香り豊かな珈琲を味わう。
濃厚な深みがあって、それでいて、自然な舌触り。
新鮮な豆とおいしい水の感触がそのまま伝わるような。
至る所にコーヒー屋さんが立ち並ぶ東京ではなくて、
のどかな田舎街で、こうしておいしい珈琲と出会えたことに感動。

おいしい珈琲を飲みながら、本をゆっくり読み、
思いついたことをノートに書き込んだりして時間を過ごし、
お店を出るときに、マスターといろいろとお話。

このマスター、30年間、学校の先生をされていたそうで、
校長先生も長く経験されて、退職後、
それまで培った18年間の珈琲研究を生かし、
長年の憧れだった、珈琲店を昨年、オープンされたそう。
そういわれてみれば、確かに、校長先生の面影のようなものがあるなぁ。
以前にケストナーの「飛ぶ教室」を光文社の新訳で読んだのですが、
そのお話に出てきたやさしくてかっこいい校長先生を思い出したり。

僕がだいぶ長い時間、本を読んで、ノートを出していたので、
それを見ていたマスターは、にこやかに、こう話してくれました。

「ここで、こうして若い人がひとりで、
 ゆっくり勉強しにきてくれるのが、私の夢だったんですよ。」
「もちろんおばさんおじさんで賑わうこともうれしいけどね、
 このあたりは、若い人たちが少なくて。」

僕が音楽をしていることをお話したので、
今度ぜひ、よいCDができたら聴かせてよ、
といっていただいて、お店を後にしました。
センスのいいクラシックが流れていたから、
僕の音楽は大丈夫かな、なんて思いながらも、
またここに来るときがとても楽しみになりました。

日が落ちた後の雪の道は、凍えるほどの冷え込みですが、
寒い寒いこの街で、なんとも暖かい出会い。