迷子という概念すらなくなる

大きいものと小さいもの、豪快なものと繊細なもの、
そういったものが、ひとつのなかに、
うねるように混ざり合う感覚は、
音楽にも絵画にも小説にもある。
そんな作品に出会うと、
今、自分がどこにいるのか分からなくなる。
それは、迷子になるというわけではなくて、
なんというか、迷子という概念すらなくなる、
ただただ空っぽになる、そんな感覚。

青森県立美術館に一歩足を踏み込んだ瞬間に広がる、
縦が約9メートル、横は約15メートルもの大きな絵。
マルク・シャガールのバレエ「アレコ」の背景画。
大きな3作品がホールを囲むように配置されていて、
その中心には自由に移動できるイスがおいてある。
僕はそこに座り、時間を忘れて、
ただただじっと、ぼんやり、眺めていた。
特に、"第1幕 月光のアレコとゼンフィラ"
という作品の存在に圧倒されて、
まさに、空っぽになる感覚を味わいました。

青森県立美術館の建築そのものも、大変美しくて、
知らない間にどんどんと時間が過ぎていて、びっくり。
また必ず足を運びたい、大切な美術館のひとつになりました。


夕方、急ぎ足で、青森港に向かい、函館行きのフェリーへ。
ほとんどの時間を外のデッキで過ごす。
ちょうど、夕暮れの見える時間帯を選んで乗船したのです。
天候にも恵まれ、思わず息をのむような、
どこまでも広がる海に浮かぶ、壮大な夕暮れに出会いました。
言葉にはなにひとつならないけれど、
からだのすべてが、じーんと、ゆったりと震え上がる感覚。

こういう風景を普段も見ることができたら、
現代社会に多発しているような、
想像を絶する犯罪は起こらないのでは?と思う。
でも、実際には、都会の込み入った環境や、
身の回りに情報があふれかえるような日々などで、
こうした大きな自然の美しさに、日常、触れることは、
なかなか難しいことなのかもしれません。
それでも、そうした日々のなかで、ほんのわずかでも、
この夕暮れを、自分の胸につめ込んでいられたらいいな、
と思ったのでした。


夜9時過ぎ、北海道に足を踏み入れると、
さらっとした涼しさに驚く。
早くも東京に戻りたくなくなる感覚が沸き上がる。

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"あおもり犬"